Webマガジン「月刊CAMNET電子版」
2018年から連載している記事のアーカイブです。

#43

ローカルとクラウドがストレージで比肩したと思う

講師を務める大学では、今年度からカリキュラムにAIを導入したのに併せて、パソコンで作ったファイルの保存場所(ストレージ)を、教室にあるサーバー内(ローカル)から、Googleドライブ(クラウド)に切り替えた。自宅で確認できないなどの不満が発端ではあるが、学生がもれなくGoogleアカウントを持っていたことや、それらに容量を圧迫されても十分な空きを確保できるといった状況も大きい。ちなみに、たまたまクラスの全員がXをやっていたので、AIはGrokグロクとした。

クラウドストレージ自体は、2008年にリリースされたDropboxドロップボックスから15年余の歴史を持つが、無料で使える容量は数GB。まだまだ気軽に手元のデータをごっそり預けるには力不足で、主に他者とのデータのやり取りに使うものとして認知された。

そこから、MicrosoftやGoogle、Appleなどの主要ベンダーも次々と競合製品をリリースしていく。WordやExcelとの統合性が高いMSのOneDriveワンドライブ、Web版のワープロ・表計算機能で一歩リードしたGoogleドライブ、iPhoneやMacなどApple製品と一体化したiCloudアイクラウドなど、それぞれが強みを生かして特色を出してきた。

中でも、無料で15GBの容量を提供し、Webブラウザという汎用性の高いアクセスに照準を合わせてきたGoogleドライブにより、ユーザーはどこにいてもどの端末からでも目的のデータを閲覧編集することを可能にしたから、「帰ってパソコンを見ないとわからない」といったくびきから多くの人々を解放した。

一方で、OneDriveは既存のWordやExcelといった高価かつ複雑なソフトウェアのセールスを伸ばすことが前提で、過去の遺産に足を引っ張られ続けている。WordやExcelのWeb版もあるが、安定性や応答速度でGoogleに劣る。iCloudも同様で、特にWindowsやAndroidからのアクセスに課題がある。複雑でWeb最適化がままならないというのは、日本国内の会計ソフト市場をけん引してきた弥生などのアプリにも言える。

Googleはその点で、Webブラウザでの動作にこだわり、比較的使われない機能をごっそり削るなど相当割り切った設計にした。例えばワープロでは縦書きやルビの機能が実装されていない。会計でも、アプリを持たずブラウザでの動作を第一に作られた新入りのサービスが、旧来の王者に取って代わろうとしている。

同期という要素も重要である。クラウドストレージに置いたデータは、ダブルクリックして直接ローカルアプリで開くことができない。ブラウザでの編集ができないデータでは特に、クラウドに置いたものがローカルにもそのままあるという状態が重要だ。また、ローカルから完全には逃れられない以上、保存場所が一元化できていなければ、ローカルとクラウド、いま欲しいデータがどっちにあったっけ、となりやすい。

その点では、iCloudのApple系OSとの統合が完成度では光る。一見して、今そのデータがローカルなのかクラウドなのか見分けがつかない。Windowsの純正はOneDriveだが、#39で述べたような不具合が止まない。刷新より継承を重視するOSの構造上、解決は難しいかもしれない。だからWindowsでもあまりしがらみのないDropboxのほうがよく使われている。Googleの同期はいただけるレベルではないが、Web重視の施策によってその難をある程度払拭できている。

大学のように複数人で一斉に使うとなった場合、紐づくアカウントをもともと持っているかも判断材料になるが、この比較ではGoogleに分がある。日本だとLINEあたりがクラウドを始めればGoogleをも凌駕しそうだが、どうもストレージで儲けようとしていない。DropboxはどのOSとも統合されていない点で、独立系にしては健闘していると言えよう。

利用価格は、おおむね2TBで月額1,500円程度の相場になってきた。本格的にデータの置き場所として使うことを前提にすると、これくらいの規模のプランに自ずとなってくるユーザーが多い。自前で同容量の外付けHDDを用意するとクラウド1年分程度だが、クラウドが持つ世代バックアップや共有機能も込みで考えると、3~5万円程度のNAS製品になる。HDDの寿命を考えたら、クラウドと比べコスト面で特段に優位とは言えない。

ぼくが現在課金しているのは、iCloudだけだ。iPhoneのバックアップや写真の置き場所として、必須と判断した。あと無料で、DropboxとGoogleを使っている。これは相手先の都合によるもので、仮置き場だ。今後、iCloudを仕事ファイルの置き場として本格運用しようかと検討中だ。クラウドとローカルを同等に比較検討する、そんな時代が本当に来たのだなという感慨がある。

2025.06

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「パソコンオタクのなんちゃって哲学」は、とみっぺが2018年より、Webマガジン「月刊CAMNET電子版」に連載している記事です。

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