Webマガジン「月刊CAMNET電子版」
2018年から連載している記事のアーカイブです。

#42

いよいよAIによる魔術化時代の入口にわれわれは立ったと思う

Webページの見た目と動作は、「HTML」「CSS」「JavaScript」、場合によって「PHP」と呼ばれるものを組み合わせることによって実現できる。プログラミング言語と名のつくものが学びたければ、その入口は「HTML」だというのがひろゆき氏の持論だ。構造は至極単純ながら、たしかに立派な言語である。

これらは、これまで基本的に人間が書き方の作法を覚え、手入力をしていた。ただのテキストデータなので、書くだけならば「メモ帳」アプリでも可能だが、作業を少しでも効率的にできるように、「コードエディタ」という分野のアプリが発達した。効率化の中身は、最初の数文字を入力したらあとのコードを予測して補完してくれたり、内容によって勝手に色付けをして表示してくれたりというものだった。

現在コードエディタで最も使われているのはMicrosoft社の「Visual Studio Code(VSCode)」だが、一昨年、これにAI機能を組み込んだ派生アプリ「Cursor」がリリースされて、コードエディタの概念が覆った。

サイドバーにChatGPTが待ち構えていて、「こういうことがしたい」と聞くと、「これを書いてください」とコードを示してくれる。ユーザーはそれをコピペすれば、それなりに動作する。完璧でなくても、70点くらいのものを示してくれれば、あとの30点を人間が仕上げるだけだ。もちろんそこもGPTに質問して効率化できる。また既存のコードを選択して呼び出すと、直してくれたり、要望に応じて新たなコードを追加してくれたりする機能もあり、従来の入力補完とは一線を画する。なにせ、一個直すと、その趣旨を汲み取り、「ここもこう直したいんでしょ」とばかり、まだ選択もしていない箇所の修正を提案してくれて、Tabキー一発で適用できてしまうのだ。

これらのAIの手助けによって、従来1時間程度かかっていた作業は10分程度に短縮された。もらえる報酬は変わらない(むしろ特急料金を追加でいただける場合もある)のだから、良いことに決まっている。

そして昨年末には「Composer」が実装された。これは、全くの無の状態から、やりたいことを伝えると、ページ全体を書き、Instagramなど外部サービスとの接続、Webへの公開処理までを自動でやってくれる驚異のAIエージェントである。

あるそろばんの先生のお悩みを聞き、「願いましては、45円なり」と読み上げそろばん技能を鍛える「読上算」をスマホでできるアプリを探したが、なんと一見して見つからない。Composerに投げてみたら、数字をランダムに決定し、順番に作法通りに読み上げ、合計を答えてくれるアプリができてしまった。基本部分は時間にして実に30分。もちろん、答えがマイナスにならない、千の位はかならず「せん」と読むなど、しきたりを反映させていく仕上げにはその後時間を要したが、それにしても驚異である。

ぼくは音声エンジンの組み込み手順を一切知らなかったのだ。従来なら人間が把握してを動かさなければいけなかったところの大部分を、AIがやってくれる。直しの部分も含めてAIがやるので、ほとんどコードに触ることなくものが出来上がっていく。人間の役割は、ここをこうしたい、ここがおかしい、というディレクターのそれに専らなってくる。このようにして、プロセスがわからないまま物事が実現していく様を落合陽一は著書の中で「魔術化」と称したが、まさにそんな時代の入口にいま自分が立っていることを痛感する。

ただ現状では、細かい仕上げの過程でAIが「暴走」することも散見された。たとえば、ここがおかしい、と指摘すると、そこを修正するために他の正常な部分を壊してしまうことがある。それを指摘すると、また元の不具合が再発する。その堂々巡りを2時間続けたこともあって、疲れ果てるといったことも間々あった。「いい加減にしてくれよ」と言っても、「そうですよね、申し訳ありません」というばかりで、馬の耳である。とはいえ、AIとのやりとりはすべてが記録され、任意の時点のコードを復元する機能があるので、いよいよぶっ壊されたときはタイムマシーン的にコードを戻し、こちらの問いかけ方を練り直すということになる。

とAIの悪口を書いたが、しかしこれが人間だと、復元も容易にできなかったりする。それに、裏を返せば「おっちょこちょいな部下」くらいまでにはなったということだ。「よくわかりません」を連発して誤魔化すiPhoneのSiriが到底人間の域に達していなかったことを考えると、恐怖すら覚える進化であるとも言える。

今まで作れなかったものが作れる楽しさに取り憑かれて、最近はアプリ制作三昧の日々だ。Webだけかと思いきや、普通にPC上で実行できるデスクトップアプリもComposerは作ってみせた。これで人間の行く末がどうとかクヨクヨしている暇があったら、これまで欲しかったものを片っ端から作ってやろうじゃないか、という気持ちで前のめりになっている。先日は寝食を忘れるあまり目眩を発症し、人生初の救急車も体験した。かように危険な世界だが、これが新時代というものなのだろう。

2025.02

インデックスに戻る

「パソコンオタクのなんちゃって哲学」は、とみっぺが2018年より、Webマガジン「月刊CAMNET電子版」に連載している記事です。

  • 執筆当時の時代状況と現在のそれが合致しないことがあります。ご了承ください。
  • 明らかな誤字などは、執筆時のものを修正しています。