Webマガジン「月刊CAMNET電子版」
2018年から連載している記事のアーカイブです。

#41

スマートホームの普及はITの重要なマイルストーンだと思う

パソコン(PCやスマホ)から自宅の家電を操作するための「スマートホーム」という概念がある。

家電とパソコンがつながると、スマホひとつで多くの家電を集約して管理できる。手や音声で操作をするだけでなく、たとえば玄関の鍵が閉まっているかどうかを外出先から確認する、特定の時刻、位置情報をもとにエアコンをオンオフする「オートメーション」を組む、人を検知したらセキュリティ通知をよこすなど、パソコンが元来持つ入出力機能をフルに活用することができる。

これを自分の家で実現するには、パソコンはもちろんだが、スマートホーム対応家電が必要になる。新築であれば、ベースの配線そのものをスマートホーム対応のものにすることもできるが、それでは敷居が高い。たとえば部屋の照明なら、ダウンライトのソケットにスマート電球を取り付ける、玄関の鍵ならばドア内側のつまみ部分を回すモーター機器を両面テープで貼り付ける。またエアコンなど赤外線リモコンを介して操作する機器は、代わりに信号を送るスマート機器を設置し半ば強引にスマート化させることができる。このように既存の構造物に後付けする方式があるのが、スマートホーム創始期の現在における大きな魅力である。

スマートホームは、主だったところで言えば、Amazon、Google、Appleの大手3社がそれぞれ「Alexa」「Google Home」「HomeKit」という規格を作り覇権を争ってきたが、これだと、対応家電メーカーはいちいち3つの規格に対応したプログラムを組まなくてはならず、スマートホームの進化を遅らせてきた面があった。そこで3社が話し合い、共通規格「Matter」を策定し2022年に運用開始したことで、家電メーカー側の対応コストが大幅に下がった。

グローバルな家電メーカーでは、スマートホーム対応が随分と進んでいる。たとえばIKEAに行くと、照明ブースの一角にスマート電球が居並ぶ。明るさの他、電球色と昼白色だけでなく、フルカラーで色を変えられるLEDスマートライトもあり、部屋の雰囲気をガラッと変えるツールとして好評だ。また、Amazonなど通販サイトで検索すれば、Matter対応のキー、インターホン、コンセント、カーテン開閉モーターといった様々な機器が手に入れられる。

このたび僕が新居を構えることになり、スマートホームの導入を本格的に行ったが、一般の方が組むにあたってはまだまだ課題が多いと感じた。

まず、「Matter」という集約する側の規格は統一されていても、大半の家電を広くカバーするメーカーがないため、照明はIKEA、ロールカーテンはAqara、玄関の鍵はSwitchBot、などと別々に購入し、しかもそれらの機器の動作を集約する「ハブ」(0.5~2万円)を別途メーカーごとに購入する必要があった。最終的にiPhoneの1画面に集約できたが、そのための予算も上がるし、設定も煩雑だ。せめてハブの必要性をなくし、各機器を直接接続できるようにしてほしい。

ことエアコンなど赤外線リモコンを使うものは、部屋ごとに送信機が必要になった。うちであれば5つ。赤外線信号は壁などの遮蔽物に弱いため、一箇所から信号を送れないのだ。そもそもエアコンの側が、赤外線信号に頼らずスマートホーム対応すればよいのだが、こと日本の家電メーカーの対応は海外と比べ非常に鈍い。高齢化社会で人手不足と言われる日本ほど、このような家電機器の進化が望まれる国はないだろう。眼前のコスト削減のために、将来性への投資が明らかに遅れてはいまいか。

さて、このような日本製家電の近代化の遅れは、カーナビにおいても強く感じる。海外では、カーナビは最近のテレビのようにAndroid OSの入ったものが一般的であるが、日本の大手メーカーのカーナビは独自システムが多い。地図データは未だに有料更新制だったりする。かたや、身につけているスマホのGoogleマップは、常に無料で最新情報が出る。高精度GPSを備えるカーナビをもっぱらカーステレオに利用し、ナビはスマホでやるという人が増えている。本末転倒ではないか。日本メーカーの鎖国囲い込み(というより惰性の前例踏襲)路線が招いた惨状である。本題と繋げれば、Androidひとつで、車内から自宅の家電を操作したり通知を受け取ったりすることも可能になる。日本経済の浮揚のためにも、このような標準規格準拠の方向に舵を切ってもらいたいものだ。

つい先日、最高齢のお客さんの玄関ドアにスマートロックを設置した。外に出てから戸締まりを心配して家に戻ることが多いと聞き、スマホで施錠を確認できるようにしたのだ。また同時に近くに住む親戚の方もそれを確認操作できるようにもした。そうしていたら、なんとお隣さんが同製品の設置に手間取っていて、手伝うことになった。スマートホームの普及を肌で感じた一日となった。ITと実生活の融合そのものであるし、AIに匹敵するITの重要な中間到達点と言えるだろう。

2024.11

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「パソコンオタクのなんちゃって哲学」は、とみっぺが2018年より、Webマガジン「月刊CAMNET電子版」に連載している記事です。

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