Webマガジン「月刊CAMNET電子版」
2018年から連載している記事のアーカイブです。

#39

パソコンの不具合は、権力の行く末を物語っていると思う

わが国の国政は、いま政治資金を巡る大スキャンダルに揺れている。次の選挙の投票先を問う世論調査では、野党第一党の立憲民主党が、衆院の議席数で2倍以上の差をつけられている自民党を上回る結果を残し始め、政権交代前夜の様相を呈している。

各党が政治資金規正法の改正案を提出しているが、自民党案はパーティー券の領収書不要要件を残すことに固執するなど、意図的に抜け穴を温存させているとしか思えない主張を隠そうとしない。挙句の果てには、党首のマネーロンダリングが疑われる日本維新の会と、領収書の公開を10年後に行うとする案に合意し、悪事の隠蔽にタッグを組んでしまう始末だ。もっともこれは分が悪すぎたのか、野党議員から質問通告を見るや、前代未聞の翌日撤回ということになり、酷さを露呈した。

圧倒的強者がその権力を長らくほしいままにしてきた結果、腐敗し、またそれを自浄することが困難になる流れは、あらゆる歴史書の語るところである。しかし、幸いにして現在ここは民主主義国家だ。有権者が頑張って、世論調査が実際の投票行動に反映され、権力者には一度に下ってもらうとしよう。

さて、政治の話で始まったが、このコーナーはパソコンから見て取れる哲学を論じる場である。つまり、パソコン業界にも往々にして政治と似たような権力と腐敗の構造が存在しているのだ。まあ、人間の営為の全てに言えるのだから、当たり前ではある。

たとえば、Windowsでは、ここ1年ほど、「バックアップをとりましょう」と促す通知が出てくるようになった。ユーザーの方はみな心当たりがあるだろう。バックアップの言葉だけ見ると、それは必要で、良いことで、今すぐ実行すべきとなる。しかし、この通知の内実は、デスクトップなど主だったフォルダ内のデータを、Microsoft(以下「MS」)が運営するクラウドストレージ「OneDriveワンドライブ」と同期させようとするものだ。それ自体悪いことではないが、有料契約をしていない場合、OneDriveの総容量はたったの5GBで、同期対象のファイルが全然入り切らないことがほとんどだ。つまり、同期して、容量が足りなくなり、これを解決する方法として有料プランへの契約を迫ってくる流れになっている。

情報弱者相手に、それらしい言葉で誘い出し、引き返せなくして、タカリをしているようなものじゃないか、というそしりを免れないだろう。ところが、この仕組みは、思わぬところに最大の問題点がある。

なんと、契約の有無にかかわらず、この同期機能を有効にすると、MS製のメールアプリ「Outlookアウトルック」のデータが消失するという重大な不具合が、一定確率で発生するのだ。この問い合わせは、僕のところに数ヶ月に一度寄せられている。

このような機能間のかみ合わせの悪さは、MSが巨大企業で、組織内の部署意識が過剰に働いていることによるものだろう。たとえば、ChatGPTなど今を時めく新進企業はどこも少数精鋭で開発を行っているため、統一感を持って迅速に機能追加や不具合修正が行える。また、ITの分野は、トップシェアを握ると互換性を保持するためにユーザーがそこに押し寄せるため、それをなかなか他社がひっくり返せない。利権に群がる人を囲い込んでしまう、日本政治における自民党とそっくりである。MSがあまりに多くの力を獲得した結果、少々のクレームでは痛くも痒くもない状態を作り出してしまい、対応が後手後手かつ不十分。より騒ぎが小さければ、不具合を不具合として発表せず握りつぶすに等しいことをやれてしまうのである。実際、OneDriveとOutlookの問題は、明らかに存在しているにも関わらず、MSは現在に至ってこれを不具合としてアナウンスしていないし、修正プログラムなども当然にリリースしていないのだ。

権力は腐敗する。パソコンの不具合からそのような人間の摂理が垣間見えるのは、誠に興味深い。そもそもITも人間が作っているのであり、大変に人間臭い界隈なのである。さりとて、ITの現場から人間を取り除いてクリーンにせよと言いたいわけではない。AIがソフトウェアを開発改良していく日も近いだろうが、そうなっても、人間によるチューニングは欠かせない。ここからは逃れられないし、なればこそ人間が尊厳を失わずにいられるのだ。

政治は碌でもない代物だが、なんぴとも政治から逃れることはできないし、逃れれば社会が壊れる、というのにこれまた似ている。

パソコンのプロダクト選びにおいても、不具合や過剰なコマーシャリズムなど、われわれユーザーの不利益になることにはうるさく声を上げねばならない。また、その解決が叶わぬと見れば、政権交代よろしく別の製品に乗り換えることが肝要である。みんなが使っているから、なんとなく使ってる。不具合時、問い合わせ先がわからず、よくわからないからパソコンごと買い替え。というのでは、ユーザーも開発者も健全ではない。権力をコントロールするための主権者意識。せめて中級者以上を自認する人はこの感覚を持ちたい。

2024.06

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「パソコンオタクのなんちゃって哲学」は、とみっぺが2018年より、Webマガジン「月刊CAMNET電子版」に連載している記事です。

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