Webマガジン「月刊CAMNET電子版」
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#35

ここ最近のSNS変革は、カオスで利用者不在だと思う

フェイスブック社が発表した新SNS「スレッズ」は、ツイッターの代替になるかと一時湧いたものの、あっという間に失速してきている。利用するにはなぜか同社の別サービスであるインスタグラムのアカウントが必要で、完全に連動している。しかも、ツイッターに優りそうな機能も現時点では特段ない。フェイスブックやインスタグラムの投稿を転送するといった機能もないか貧弱である。

そもそも他社の代替になろうと思えば、その問題点が何なのかを的確に捉えなければならない。昨今の著名人の自殺や被害報告、訴訟騒ぎにみられるように、罵詈雑言のたぐいが跋扈し、ネットリンチが横行する殺伐とした空間になりやすいことが、世間では問題にされている。過激なワードのツイートがあればアカウントの凍結などの措置が取られるという建前だが、そこが有効に作用していないように見られる。このあたりへの処方箋が明確に示されなければ、新しいサービスに乗り換える機運は大きくは生まれないだろう。

また、そのツイッターも、買収したイーロン・マスク氏の方針により、突如「X」へのブランド変更が発表され、多くの人は青い鳥を名残惜しんでいるようだ。なにせこの命名が悪手だ。いちばんは検索性の悪さである。今までであれば「広末涼子 ツイッター」などと検索して、ある人がツイッターをやっているかを調べ、プロフィールページに手早くアクセスできたものが、「X」だと言葉が短く汎用的すぎて、必ずしもこのサービスだけを指すものではなくなってしまうため、関係のない様々な結果がリストアップされる可能性を高めてしまっている。僕が日々愛用している自動化サービスの名前も、かつては「インテグロマット」だったのを「メーク」としてしまい、いまでは関数を解説するページにたどり着けなくて困っている。こんな基本を踏まえていないブランディングが、ここまで大手のサービスで行われてしまうことに、驚きを禁じえない。

その「X」は、その何者か分からない名が表すように、決済機能なども搭載した総合型のアプリへの変貌を見据えているという。だがそうなると、アプリに入れば何でもできるが、起動するアイコンはひとつである。スマホでやりたいこと別にアイコンが並んでいる直感性に逆行するもので、これまた疑問が多い。

そうしたら今度は、ティックトックが、ツイート同様文字のみの投稿機能を搭載した。カオスであるが、短文投稿された世界中のコンテンツを争奪すべくSNS各社が大喧嘩をしていることだけはわかる。

さて、この流れを俯瞰で見ても細部で見ても、いっこうに利用者が見えてこない。これらの変革で、果たして誰がどう嬉しいのか。人々の個人情報を直接であれビッグデータとしてであれ、収集したい側の都合ばかりではないか。そのむき出しの本音から見ると、利用者同士が汚い言葉を投げ合おうが、よほどの大量離反に繋がなければどうでもいいのだろう。

やはりわれわれ利用者の視点から見ると、世の中の最新のトレンドが分かる、著名人の生の言葉にふれることができるといったメリットを保ちつつ、人を不当に傷つける言葉の暴力が減るようにしていってもらわなければ困る。そこでひとつ突っ込みたい。「ここで生成AIを使わないでどこに使うの」と。

生成AIは、言葉を生成するために当然に、入力された文字列の文章構造を解析する。この解析の部分を、すべてのツイートに適用し、誰かを傷つけていたり、デマで騙したりしているか、フィルタリングできないはずがないのだ。といっても、これまでに書いてきたように、生成AIに全て身を委ねるのは危険だ。これは悪質ではないかというフラグが立つ程度でよく、リストアップされたものを迅速に人間判断していくのが望ましかろう。

ツイッターでは先ごろ「コミュニティノート」なる機能が実装された。他の利用者からの申し出によって、事実誤認と疑われるツイートに対し、それを指摘する文章が通常のツイートとは違う枠で表示されるものだ。しかし、何を以て事実とするかが人間からの摘示がゆえ、その偏りが早くも指摘されている。これを自他の国家権力が利用すれば、悪質なプロパガンダとなってしまうことは、想像に難くない。

なにごとも複雑さが増し、やがて腐敗する。そして破壊と創造が起こる。SNSももちろん例外ではない。つまり、利用者が増え、争いごとかが絶えなくなる。誰かを意図的に痛めつけたり、恣意的な偽情報をばらまき、トレンドの捏造ともいうべき状況が現出することもある。マスク氏がやろうとしていることは、我々には想像できない創造なのかもしれない。しかし、間違った方向性で壊せば、それはただの破壊になってしまうし、今そうなりつつあるように感じる。つまらないけれど、地道な改善も極めて重要だ。そこにクリエイティブを使う余地はいくらでもある。ただのビッグデータ生成ツールに堕してほしくはないのである。

2023.08

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「パソコンオタクのなんちゃって哲学」は、とみっぺが2018年より、Webマガジン「月刊CAMNET電子版」に連載している記事です。

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