Webマガジン「月刊CAMNET電子版」
2018年から連載している記事のアーカイブです。

#28

子育ては、AIプログラミングそのものだと思う

Googleで「子育て プログラミング」と検索をしても、「子育てママのためのプログラミング」とか、「子供にプログラミング的思考を持たせる」といったページはリストアップされるが、表題のようなコンテンツは1つも目にすることができなかった。

2017年に子どもが生まれ、 まさに毎日が新体験だ。まず生まれたての赤ちゃんは、泣くことしか知らない。これ一つとっても、人の子供に少し接して知っていたのと、日々ずっと一緒にいるわが子を観察して得心するのとは、全く違う。いきなり母体から外界に放り出され生命の危険と戦う赤ちゃんは、常に怯えることだけを初期値としてプログラムされた状態だ。笑うことを知らない。まさに未完成のAIと同じだと直感した。

「笑うことを知らない」をもう少し分解して考えてみると、まず「笑い方そのもの」を知らない、「面白いときに笑う」ことを知らない、そして、「何が面白いのか」を知らない。この3つの無知があるのではないかと考えた。 だから、早いうちから順番に伝えて、子どもをアップデートさせていくことにした。

まずやった事は、子どもの正面でひたすら笑うことだ。 日本語は通じないし、泣いているとき以外は真顔なので何を考えているのかわからない。赤ちゃんは文脈理解ではなくてとにかく真似ることから始める。加えて、AIと違い、記憶を定着させるためにはかなりの反復が必要だ。とにかく挨拶をするつもりで気持ち悪いくらい同じように笑い続けた。

そして、僕自身が面白いと思ったとき、つとめて大げさに振る舞うように心がけた。いちいち子どもの目を正視して、大笑いした。子どもは、なぜ面白いのかはわからないが、これが面白いらしいと考える。

このようにしたことで、かなり早い段階から笑顔作ろうと顔をくしゃくしゃにするようになったように思う。8ヶ月ごろ歯医者さんに行ったとき、「お子さんめちゃめちゃ笑いますね」と驚かれたことを覚えている。

この時期の子供は、まだ言葉は話せないが、感受性は格段に進化してくる。 周囲の生活音、大人同士のおしゃべり、出しているつもりのないこちらの感情など、本題以外の情報を鋭敏に受け取っている。小手先で取り繕っても見破られることが増えてくる。 嵐のような子育ての毎日で疲労困憊の中にあっても、こちらの情緒が安定していることはかなり重要だ。離乳食のテンポ、お風呂での数数え、 子守唄など、なるべくムラッ気なく毎日同じようにやることを心がけた。ただ、どうしても我慢できず声を荒げてしまったりすることはある。ふと気がつくと、憤慨の仕方がそっくりだとか、日を追うごとにマジかとなる場面が増えるが、すべて自分で蒔いた種だ。そういうときは、後悔していることを全力で伝え、その良くない行為は決して反復しないと心に誓うしかない。取り返しが付く範囲でベストを尽くし良質な情報でアップデートしてもらうのだ。

歩き方から始まり、お箸の使い方、言葉や文字など、覚える内容もどんどんレベルアップしてくる。ここで、プログラミング的に言えば再生ボタン、つまり「テスト実行」を増やしていく。例えば数字だと、一ヶ月程度、毎日10まで一緒にゆっくりはっきり数える。最後の「10」をこちらが言うタイミングをワンテンポ遅らせて、本人自身に思い出して言わせてみる。言えなくてもいいので、ほんの1秒とかでいい。自分で言えたときはその都度感動のフィナーレみたいに騒ぐ。言うまでもないが、これをだんだん9、8、と繰り上げていく。遅らせる時間も広げる。3ヶ月もすれば、自分で数えるし、かわりばんこに数え合ったりもできて、自由自在だ。

お風呂には、百円ショップで買ってきたひらがなやアルファベットのシートも貼っておく。アップデートすることそのものを知った子どもは、さきほどの数字ほど丁寧にやらなくても、だんだん自動化してくる。「これなに?」と聞かれている間は、ただ答える。りんごの絵を聞かれ、日本語も英語も中国語も伝えたりする。自分が知らなくても、いまはスマホで調べられる。自身のアップデートも少し兼ねると、楽しみをリアルに共有できる。このように答えは増し増しで問題ない。ある程度の負荷に慣れておいてほしいのもあるし、一旦情報を入れて忘れるのと、初めから入れてないのとではぜんぜん違うからだ。

接し方は完全に子どもに対するそれだが、しかし機序は他でもなくプログラマーであり、また真剣な語学教師だ。相手は知らないだけで、叱ったり見下したり面白がる相手ではない。ある意味で対等に、淡々と繰り返し伝える。どうしてもうまく発音できないときは、舌の使い方含め、変顔で笑わせながらテコ入れをする。プログラミングも、みんなが思っているほどすんなり動かない。いろんなアプローチから繰り返し攻めてみて、やっと思い通りの挙動をしてくれる。何も違わないのだ。

字数が来たので、デバッグなどの要素も次の機会に考えてみたい。

2022.02

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「パソコンオタクのなんちゃって哲学」は、とみっぺが2018年より、Webマガジン「月刊CAMNET電子版」に連載している記事です。

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