Webマガジン「月刊CAMNET電子版」
2018年から連載している記事のアーカイブです。

#21

オタクが成功するには、客観と共生が鍵だと思う

自称「鉄道マニア」のユーチューバーに、スーツ氏という人物がいる。二十代前半の現役大学生。学業の合間を縫って、全国を鉄道で駆け回り、もっぱら目的地ではなくその道程を、淀みないマシンガントークでドキュメントする。

彼の動画をずっと過去にさかのぼって見てみると、最初は、本人のナレーションも顔出しも全くなく、引退列車のラストランなどをただひたすら映像に収める、何の変哲もないものだった。それがある日の動画で、とある九州の駅のプラットホーム上にひょこっと本人が登場して始まる動画を境に、変化する。これは彼いわく、オタクとしての自分自身をマネタイズすることはできないかと考え、戦略的に始めたものであった。それから3年、現在の稼ぎは、総理大臣の年収を少なくとも超えているだろうと語っている。

彼への評判は、鉄道への造詣の深さだけでなく、一塊のオタクがその個性を活かす形で注目に値する経済的ステータスを手にしたサクセスストーリーへの称賛や羨望から来ていることが、コメント欄から読み取れる。

オタクまたはマニアとはそもそも何だろう。僕の私見では、取り立てて論じるようなものではないと世の中の大半の人が無視している事柄になぜか関心が向き、その僅かな違いに好悪など様々な感情を抱いたり、敏感な感覚器ゆえに、対象をまったく異なる概念で捉える性癖である、と定義できるが、いかがだろうか。

その前提で考えると、オタクは特定の分野に大半のエネルギーを費やし、周りには理解不能な脳内世界を築き上げる一方で、それ以外の部分が疎かになりがちだ。ことマネタイズの部分にフォーカスが当たらず、仕事そっちのけで趣味に没頭したり、週末の趣味活動のために平日我慢して労働したりすることになる。そもそもコミュニケーションに難がある場合が多く、マネタイズからは余計に遠のいてしまう。

なればこそ、スーツ氏の成功はオタク界の希望の星として羨望の的になる必然性がある。ただ、後継世代のオタク達は、羨み続けるだけでなく、彼から学び、趣味活動がお金を生む無敵のループに入ることができる。彼がわざわざ自分の生き方などについて多く語るのは、そういう眼目があるからだ。

オタクが成功するためのキーポイントはなんだろうか。僕なりに一言でまとめれば、「非オタクすなわち世間一般といかにうまく共生するかを考え抜く」ことだ。

僕は大学入学ごろの時点で、自分はだいぶオタク気質で、人と比べて友達を作ることが難しく、一般的な遊びでは面白いと感じられないと自覚していた。このまま周りに合わせていても楽しくないし、周りも自分といて楽しくないだろう。きっと社会人になったら、勤務先で少なからずハレーションを生んでしまうだろう、と悲観した。

そんな自分が、まずどのようにすれば周りと上手くやり、自分もストレスを抱えず過ごせるだろう、と悩んだ。オタクが集まる場で過ごすというのはひとつの方法だ。実際スーツ氏は高校時代に運輸科を履修し、濃密な日々を過ごしたと言う。しかし僕はアナウンサーなど別の興味もあり、そこまでは思いきれなかった。共感をベースに置いてもらえない以上、僕が相手にわかりやすい便宜を提供し、感謝をしてもらったり尊敬の念を抱いてもらうしか活路はない、と結論した。

パソコンを弄り倒して幾度も初期化を重ねた子供時代の経験をもとに、パソコンメンテナンスの仕事を思い立ち、それを依頼してもらえるよう自家用車の後ろにフライヤーを貼り付け「起業」するまでに、時間はかからなかった。

もちろん起業してからも、小さな成功失敗はたくさんあった。その中で、オタクが率先してやるべきこと、またやってはいけないことも徐々に言葉にできるようになった。

これはスーツ氏も言っていてそのとおりだと思ったものだが、オタクは、ある程度謙虚さを捨て、自分はその分野について精通しているというキャラを貫くほうがよさそうだ。確かな知見を持っている態度が安心感を与え、友人としての愛着は持てなくても、その分野で役に立つ先生としてのポジショニングを相手の中で確立することができる。

一方で、自分の捉え方を当たり前のように語り同意を求めたりすると、相手はスッと引いてしまう。自分の考えは世の中一般にとっては異常である可能性が高いという客観性を持ち合わせておくことが重要だ。

スーツ氏はあくまで鉄道マニアであって、動画配信は本来あまり好きではないと語る。自分のストロングポイントを基礎に、少しだけ頑張って表現することで、活動をお金に変えている。さしづめ、オタクエキスのおすそ分けと言ったところだ。自分の世界を守りつつ、少しだけ世の中に還元する。もともと強みを伸ばすことに長けているのだから、少しくらいバランスを取ったって壊れることはない。世の中の不遇なオタクが一人でも多く開花し、多様で幅広い味わいを持った世の中になっていくことを願いたい。

2020.10

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「パソコンオタクのなんちゃって哲学」は、とみっぺが2018年より、Webマガジン「月刊CAMNET電子版」に連載している記事です。

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