Webマガジン「月刊CAMNET電子版」
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#18

未知の感染症は、日本のIT活用力を否応なくまともにすると思う

前回からの続きで香川県の「ネット・ゲーム依存症対策条例」について書くつもりだったが、新型コロナウイルスの猛威が世の中のムードを一変させてしまった。香川県は現時点では全国の中で最も感染が広がっていない地域のひとつである。良いことだが、それゆえに市民の危機感は東京などと比べ決定的に欠けているように見える。

発生源である中国の武漢市で体育館に病床を仮設したニュースが駆け巡り始めた1月中旬、仕事柄そのへんに詳しい友人からの電話、20年以上購読している国際情勢メルマガ、SNSでの現地発信などが重なり合って、これはただごとではない、日本に影響が及ぶのも時間の問題だと気付いた。なにより気になったのは、タイやシンガポールでも蔓延していることから、温暖な季節になってもどうやら収まらず、長期化が必至であるということだった。

医療崩壊や社会不安、景気後退など、負の要素盛りだくさんの事象である。一方で、長期化するが故に、様々な社会の慣行を変革することになるのではと直感した。

安倍政権が取った最初の大きなアクションは、学校の一斉休業要請だった。以前に学校のあり方についてIT化も絡めて論じたが、学校不要論にも行き着くような大変革の波を、未知のウイルスがもたらしてきた感がある。長期化ゆえに、学校がいつまでもただ休んで、学びたい子ども達の活動を妨げ続けるわけには行かない。オンラインで授業や課題のやり取りをしている海外の国々と比較しても、日本の教育IT化の後進性は際立つ。

ひとまず学校のオンライン化は、従来対面でやっていたものをそのままオンラインで再現する形になるだろう。SkypeやZoomだけでなく、国内に広く行き渡っているLINE でも、グループ通話はもちろん、講師がパソコン画面を配信する機能も先日実装された。また萩生田文部科学大臣も、オンライン授業を単位として認める方針を示した。やろうと思えばすぐできる環境にある。ただし、これを漫然とやっている限りは、あくまで緊急避難の次善策に終わる。もとよりこの形式なら対面のほうがいいからだ。オンラインならではの活用方法を見出していくことが重要だ。

たとえば、ドリル類はすべてフォーム入力になるので、単純な選択問題は自動採点できる。先生の負担を最小限にしつつ、小さな達成感を伴う自習をそれぞれに促せる。また、クラスや学校全体の、問題ごとの正否傾向が一瞬にしてグラフ化できる。先生が目の前にある貴重な一斉配信の時間を何に使うか、的確な選択ができよう。

また、ライブへのこだわりを捨てる大きなきっかけになる。収録配信である。子どもは本来やりたいことがたくさんあって、創造性に満ち溢れている。画一的に朝から夕方まで教室に張り付けておかなくていいのなら、それに越したことはない。大人が勉強好きになることが多いのは、いつでも好きなときに好きなものを勉強できるからだ。

となると、自ずと教材の外注化が促進される。対面のライブでない以上、先生がすべてカリキュラムを組んでしゃべる必要がないからだ。たとえば日本史ならオリエンタルラジオの中田さんが配信しているYoutubeチャンネルはとても面白く立派な教材だ。このような柔軟性は、慢性的に忙殺されている先生のエネルギーを、個々の生徒へのサポートなどあるべきところに振り向けるこの上ない要素となるだろう。

これらの変革は、従来から学校に行けない病気や不登校の子ども達との格差もなくしていく。そして普通に通っていた子ども達にとっても、拘束されず好きなことをする時間をより増やすことができる。学校とはそもそもなんなのかが問い直される。帰結として「軍隊」から「公園」になっていくだろう。コロナ後にとてつもない財産をもたらすはずだ。

さて執筆している今日は緊急事態宣言前夜だが、宣言がなされると、仕事のありかたも更に見直していかざるを得ない。特に都市部の満員電車通勤などはコロナの影響をもろに受けるため、これまで僕達はなんてことをしていたんだと目を覚ます人も多かろう。

日本は今や労働生産性で先進各国に大きく水を空けられている。書類、会議、稟議など、IT化以前にそもそも必要なものなのか、徹底した合理化が求められる。もしもこれが楽しいことなら、いくら無駄でも反対しないが、僕はそれらを省いて浮いた時間、美味しいものを食べたり、温泉や昼寝に使いたい。

業務のIT化にはいろいろな側面があるが、その中でも「情報共有」と「ルーティン自動化」が勘所であるというのが、システム開発をやってきて感じるところだ。スタッフ間のスケジュール共有をGoogleカレンダー等で行う、Dropboxで書類や画像ファイルを共有するなど、お金をかけてシステムを構築しなくてもできることはたくさんある。僕にとっては極めて基本的なことで10年前からやっている。このようにして、日本の労働環境の一定割合が在宅・多拠点化し、不必要な時間拘束が解かれていくべきだ。

2020.04

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「パソコンオタクのなんちゃって哲学」は、とみっぺが2018年より、Webマガジン「月刊CAMNET電子版」に連載している記事です。

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