Webマガジン「月刊CAMNET電子版」
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#17

香川県のスマホ条例は、大人の行動こそが問われていると思う

1月中旬、「ネット・ゲーム依存症対策条例」の素案が香川県議会に提示された。ぜひQRコードから素案に目を通していただきたい。内容は全体として総論的で、家庭内での努力義務を要請するものだが、「子どものスマートフォン使用等の制限」を規定した18条の2において、「子どものネット・ゲーム依存症につながるようなスマートフォン等の使用に当たっては、1日当たりの使用時間が60分まで(学校等の休業日にあっては、90分まで)の時間を上限とする」と、目安ながら具体的な数字が盛り込まれたことが悪い方向にアイキャッチになってしまった。全国放送で盛んに報道されたのもあり、ネットを中心に批判が続出した。その後、この条文は冒頭が「子どものネット・ゲーム依存症につながるようなコンピュータゲームの利用に当たっては、」と変更されたほか、事業者に対して「射幸性が高いオンラインゲームの課金システム等」の自主規制を求める文言が追加された。

批判の主な方向は、ひとつには「古臭い大人が根拠もなく子どもの自由を奪っていじめている」といったものだったと僕には見える。友人とのコミュニケーション、調べ物など多様な分野で重要な位置を占めているスマートフォンそのものの使用時間を制限することで、子どもの創造性を奪い、将来の可能性を摘んでしまうのではないか、という懸念は、筋として理解できる。条文変更はそのような観点で行われたのだろう。

もうひとつは、「行政が家庭内のことに介入するとはけしからん」というものではないか。権力の監視という意味では外見上真っ当な批判ではあるけれど、今回の素案に対しては少しすれ違ってはいまいか。使用時間は目安だし、実際上は家庭内で取り決めてくださいというお願いベースのものである。そもそもこれらをどうやって取り締まるというのか。わが子の使用時間超過を目撃したと、親が通報するわけもないし、日本はさすがに密告制度を喜んで作るような国ではない。また、様々な健康被害で通院したとき、その医療費の自己負担分以外は行政が税金を使って補填するわけだから、医療費の増大を食い止めるべき主体がなんらかの警鐘を鳴らすことはあってしかるべきと考える。

さて上記2つに共通するのは、条例が市民を「過剰に縛っている」というものであろうが、僕は依存症と視力低下を防止する観点で、むしろ「不十分だ」と感じる。

まずもって足りないのは、それなりの根拠に基づく言葉の定義だ。特にゲーム依存が一日平均何時間以上の使用か定かな定義が世に存在しない。条例にするならば、その他の依存症の定義などを援用して、県として目安を定め、後々に科学が違った結論を出せば変えていけばよいのではないか。また、依存症が認定できたとして、そうでない子ども達にまで努力を促す「60〜90分」という時間にも、なんら科学的な根拠は示されていない。対象がゲームのみとなったことによりいくぶん現実的にはなったものの、一見するに短時間すぎて、現代の生活に支障をきたさないかと心配になった。もとより一律の時間制限が正しい方向なのか、僕はかなり疑念を持って見ている。

この条例は、子どもの行動について言及しているように見えて、実はそれを監督する大人の心配りに中心が置かれていることは言うまでもない。その大人がネットやゲームに相当の時間とエネルギーを費やしている例も散見される。かく言う自身もスマホゲームはするし、全く依存していないと胸を張って言えるわけではない。そのような大人が本気で範を示し、子どもを適切に監督していくには、行政としてはまずやりすぎるリスクについて大人を説得し、納得してもらわなければならない。その説得力の基礎が根拠だ。意図しないまでも結果として、しっかり自身をコントロールできない大人が子どもを一緒くたに縛ろうとする図を、条例が示してしまったのではないか。

代替案のなさも印象的だ。たとえば高松市内の公園は、球技禁止と明示されているか、実質的に不可能なものが多い。僕は平らな遊び場に恵まれていたため、中学時代に野球ごっこをたくさんしたが、決して体育会的な部活動に参加したいとは思わなかった。僕の見立てでは、スポーツをそのような感覚でやりたいと思う子どもの割合はさらに増えているはずだ。また、明るいうちは塾や習い事で忙しく、スポーツどころか外で遊んでいる暇がないという子どもが多いと聞く。集団競技は頭数が揃わないと成り立たないので、悪循環に陥る。このようにして、子ども達が家の中でのみ楽しみを見つけざるを得ない方向に、大人が追い込んでしまっているとも言えるのだ。

その他、スマホゲームより楽しいことはないのか、ネットやゲームの依存症や視力低下を防止する義務を一義的にどこに求めるべきかなど、まだまだ考察したい点が多いが、字数が来てしまったので、次号に続きを書くことにする。

2020.02

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