Webマガジン「月刊CAMNET電子版」
2018年から連載している記事のアーカイブです。

#13

いまPC市場は、デフレ真っ只中だと思う

四捨五入すれば創業約20年の僕であるが、ここ2年ほど、PCの代理購入においてそれまでとは状況が大きく変化をみせている。中古PCをYahoo!オークション(以下「ヤフオク」)で調達する機会が突出して頻繁になったのだ。Macは綺麗さへのこだわりから新品を求める向きが依然あることや、古い年式のものは最新バージョンへのアップデートを禁止されるなどシビアに切り捨てが行われるOSの性質上、ヤフオクでの調達は限定的だが、ことWindowsでは顕著だ。

「PCを少しでも安く買いたい」というクライアントからの要望は、言わずもがな、昔からずっとされてきた。しかし、安かろう悪かろうでは結局次の買い替えが早く到来し、長期的に見ればコストは無駄に膨らむ。耐久性に問題がなくても、日々の使用でストレスがたまるような低スペックなモデルを勧めるわけにもいかない。このような理由から、基本的に一定以上の価格帯の新品PCを提案してきた。ところが、2017年ごろからヤフオクに出品されている中古PCの質が急に上がり始め、避ける理由があまりなくなった。この変化はいくつかのできごとが重なって起こっていると考える。

1つめに、パソコンの頭脳に相当するプロセッサ(CPU)の性能が、2010年ごろからほとんど停滞している。2000年代半ばまでのPCのCPUは、年式が1年違えば同じ処理の所要時間が半分に短縮されるというほど、進化が極めて速かった。(だから旧式のPCは安値で中古市場に出回るが、かと言って購買意欲をそそるわけでもない。最新機種の購入が鉄則なのだ。)それが2000年代後半にかけて徐々に鈍化し、ついに一般向け市場では特にほぼ落ち着くに至った。OSが次々に新機能を搭載する模索の時期を終え、世界的なインフラとして安定がより重視される時代を迎えたことで、要求するスペックが上げ止まったことが大きい。

2つめは、データを保管するストレージ部品の世代交代だ。フロッピーディスクから起動するDOSの時代を大きく変えたのは、Windows 95の登場だった。以来PCにはハードディスク(以下「HDD」)が内蔵され、大容量のデータ保持が可能になった。だがHDDは他の部品と比べて耐久性が悪く、PC故障の原因の過半数がHDDと言われるほど、PC寿命にとって最大のボトルネックになっていた。これを克服したのが、ソリッドステートドライブ(以下「SSD」)だ。HDDが磁気の円盤なのに対し、SSDは半導体。静音、高速、高耐久の3拍子が揃った新世代ストレージである。当初はやはり価格面で大きく差があり庶民には手が出ないものだったが、タブレット機器への搭載を契機に2015年ごろから低価格化し、広く使われるようになった。

3つめは、上記の変化がどうであれ、数年おきにPC設備の置き換えを行う官公庁や病院の存在である。コストにシビアな民間企業にとっては羨ましい限りであるが、特にHDDの耐久性が頭をもたげていた状況下では、一律の置き換えはトータルで見てそんなに不合理な選択でなかったことも確かだ。ただ前例主義の組織ではやり方が習慣化しており、前提条件が変わってもその変更まで数年のタイムラグが発生する。

さて、これらが組み合わさるとどうなるか。

2010年ごろのPCは、プロセッサは今とそう変わらないが、ストレージはHDD。これが故障で動かなくなる。裏を返せばHDD以外はピンピン動いている。だがしかし一般消費者は「もう寿命だ」と判断し、廃棄する。官公庁等では故障の有無に関わらず定期的な置き換えによって放出する。これらを二束三文で買い取った業者はそれらのPCのストレージを低価格化した新品のSSDに交換する。CPUの性能はほぼ進化していないので、現在の最新機種と殆ど変わらない。その上、ストレージは新世代化して、HDDのときでは考えられなかったようなスピードでWindows環境が動作する。これを3〜5万円でヤフオクに出品する。

機種を選定する僕にしてみれば、新品で10万円代後半するような最上級機種と同等のものが、見た目のクールさは劣れど、5分の1から3分の1程度の価格で手に入るし、耐久性を心配することなく提案できる。気にするとすればOfficeが入っているかや、ノートPCのバッテリー寿命、表面の目立つ汚れや傷ぐらいだ。もっとも2010年式となれば、今と変わらないような薄さと軽さのモバイルPCは普通にあるし、即決価格で購入すれば新品のバッテリーにして売りますというものまであったりして、至れり尽くせりだ。

このように、PCを構成する要素の進化停滞と世代交代という相反する流れが交差する中で、特異な状況が生まれていると言えるだろう。しかも、PCでやっていた作業がスマホでもできるようになり、PCの存在感が相対的に低下し、メーカーも絶対にPCで儲けなければならないという熱意がなくなっている。新品優位の仕組みを作ることも特にしない。価格低下が業界の弱体化をもたらしているわけで、まさにデフレである。栄枯盛衰かく起これりと言う感じで、一時の便利さと寂しさで複雑な気持ちになる。

2019.06

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「パソコンオタクのなんちゃって哲学」は、とみっぺが2018年より、Webマガジン「月刊CAMNET電子版」に連載している記事です。

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