Webマガジン「月刊CAMNET電子版」
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#12

改元は、アプリのアップグレードとクラウド化を推進すると思う

この4 月1日、ついに新しい元号「令和」が公表された。いざ耳にすると、その意味合いがどうであれ、時代のリセットを否応なく感じ、たまにこういう事があっても悪くないなと思ったところだ。

今回は生前譲位の性格上、新元号は事前に公表された。これが伝統に則っていないとする保守層からの批判がちらほら聞こえてくるが、西暦表記で統一できていない以上、ある日とつぜん元号が変わるというのは、企業が発行する伝票の表記などシステム改修の都合上きわめて不都合だ。このIT隆盛期にあっては社会全体の活動に大きな損失をもたらすだろう。(1ヶ月前でも遅すぎるぐらいだが。)その点で今回の天皇の生前譲位という決断は時代に即応しているし、今後これが慣習になっていくべきだ。

さて、いま言った「システム改修」について掘り下げていくが、パソコンのアプリを新元号に対応させるとは、具体的にどういうものだろうか。これは各ユーザーがアプリをどのような形態で利用しているかによって、時間もお金も内容も異なってくる。

まず、開発業者などに依頼して自社専用のシステムを作っているときは、その業者にアプリの中身を編集して、新元号に対応してもらわなければならない。規模が大きければ、かかる時間やお金は莫大になる。柔軟性はあるがコストが高い。これは自前システムの強みであり弱点でもある。

「弥生会計」や「Excel」など、市販の既製アプリをインストールして利用する場合は、新元号に対応する「アップデート」、またはバージョンを一気に新しいものにする「アップグレード」が必要になる。ふつう前者は無料だが後者は有料だ。あるていど最近のバージョンを使っていないと、無料でアップデートさせてもらえないことが多いから、使い慣れたバージョンを長年使い続けているケースでは、大枚をはたいてアップグレードするかどうか、真面目に検討するきっかけになる。

上記2つはパソコンの勃興期から長らく存在してきた利用形態であるが、ここ数年で生まれ急速に広がってきたのが、インターネットブラウザからアプリ(サービス)にログインして利用する、いわゆるクラウド利用である。使用料は月額や年額で継続的に支払う。この場合、プログラムはユーザーのパソコンの中ではなくインターネット上にあり、提供元はいつでも改修が可能だ。追加コストもない。だからある日ログインしてみたら、新元号に対応しているじゃん、ということになる。今回のようなケースでは難しいことを最も考えなくて良い利用形態と言える。

以上3つの形態を比較するとわかるように、改元のような大きなルール変更が生じたとき、自前システムは個別対応、インストールするアプリはアップグレードを強く促す結果になるが、そのコストや手間の程度を悟り、ほとんど何もする必要がないクラウド利用へと誘導される結果になる。ふだんクラウドをぼんやり新しいものとして捉えていた人々も、現実の問題を前にして真剣に考え、メリットを学ぶ。その点では、なにかとグローバル化の障害として批判される元号や改元は、国民のIT知識を深めさせると言える。また、システム改修やアップグレードも同時多発的になされ、システム開発やアプリメーカー業界の経済を潤すことは確かだ。

このような良い方向の効果は、古来からそれぞれの世の文明レベルによって形は違えど、その都度もたらされてきたに違いない。そう考えれば、前述の心理的なリセット感と相まって、西洋にはないユニークな政治経済的仕掛けだなと感嘆する。

ただ公表のタイミングはもちろんのこと、政治の側がきちんと改元に関する諸々のルールを明確にしなければ、逆効果になってしまうことは言うまでもない。今回の改元についてひとつ喫緊の課題をあげるとすれば、「令和元年度」問題だ。というのは、この5月から来年3月までの期間を「平成31年度」とするのか「令和元年度」とするのか、実ははっきりとした答えが示されていないのだ。国自体は予算の名前を5月以降「令和元年度予算」とすると決めたとのことだが、地方自治体に対しては表記をどうするかについてそれぞれの裁量に委ねるらしい。これはいただけない。パソコンのプログラムに「どっちでもいいよ」などという命令は通用しない。やはりここは国として見解を示し、表記を全国的に統一すべきではないか。それにより、民間企業等の各システムも、統一したプログラムで効率的に運用できる。

人生は基本的にひと繋がりでリセットなどできないが、日本にはちょっとだけ気持ちや行動をみんなでリセットする不思議な仕掛けがある。そしてそんな一見無茶なことを挙行するには当然ついてくるコストと、その思わぬ副産物について論じてみた。こんなことを服喪の自粛などなしに書けることもまた生前譲位の効果と言えるだろう。

2019.04

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「パソコンオタクのなんちゃって哲学」は、とみっぺが2018年より、Webマガジン「月刊CAMNET電子版」に連載している記事です。

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