Webマガジン「月刊CAMNET電子版」
2018年から連載している記事のアーカイブです。

#11

ローカライズで、アプリメーカーのやる気とセンスは概ね分かると思う

我々が利用しているパソコンの端末、OS、アプリケーション、どれを取ってもグローバル企業は不可欠だ。国産メーカーのパソコンでも部品レベルでは輸入品だし、OSは日本国内に有力なものがない。アプリは物によっては地産地消的なものもあるが、OSの機能を使っている以上混じりけなしとは行かない状況にある。

そのような中でアプリに必要になってくるのが、現地語化いわゆる「ローカライズ」である。まずはじめにアプリは制作する人やメーカーがある国の言語、または英語で作られる。それを世界に売り出すには、それぞれの言語で表示させることが起爆剤になる。大きく言語構造が異なる英語への苦手意識が強い日本においては、英語表示というだけでアプリの利用を敬遠するという人も多いから、余計に重要だと言える。

「Google翻訳」などのWebサービスで英語を翻訳してみたことのある人は多いと思う。一見ちゃんとできているようで、読んでいくとずっこけるような意味不明の翻訳になっていることはままある。現状でもそうなのだから、アプリのローカライズは到底自動化できず、各言語の話者を集め人力頼りでやってきたことは想像に難くない。ローカライズはとても労力がかかる作業で、できること自体が制作サイドの体力を表すものなのだ。

日本語へのローカライズについて振り返ると、2010年ごろまでは、Microsoft(MS)製品のローカライズは、たいへん気合が入っていたように感じる。細部の設定画面まで徹底して日本語化され、英語がむき出しの部分を探すのに苦労した。ただし、日本語にはカタカナという最強のごまかしツールが存在する。そう、英単語をとりあえずカタカナで書いとけばいいか、というのができてしまうのだ。「リモートプロシージャコールに失敗しました」といった、高齢の方が見たら静かにパソコンの使用を中止するようなレベルの難解なカタカナ語が一気に増加したことは、一応の徹底のために仕方なかった部分かもしれないが、パソコンユーザーの進化において罪な部分だったとも言える。

他方その頃のApple製品では、難解さを取り払うことが第一に考えられ、ひとつひとつのクオリティは高かったが、やはり引き替えにローカライズが追いつかずに英語のままの部分が散見された。

その景色は、ここ数年ほどで変わってきた。

まずMSのローカライズ精度が顕著に落ちてきた。一応英単語ではないものの、全く意味がわからなかったり、文法的に語順のおかしい日本語が増えてきたのだ。Windows 8以降のOSそのものの迷走で、頻繁に画面デザインが変わり、その都度すべてをローカライズする余力が奪われてしまったこと。Windows 7までで商業的に大成功を収め、その余力で販売できてしまっていること。MS内の興味対象が3Dメガネや医療分野などに移り、OSやオフィス製品が遺産的な位置づけに堕しつつあること。このようなファクターが重なっているのだろう。今では一部でGoogle翻訳レベルの自動化がされていると強く推認される箇所も出てきた。

AppleはiPhoneの成功で大幅にユーザーを増やし、重要インフラ化している。特に日本は世界の中でもひときわiPhoneが売れている市場のため、膨大なコストをかけて質量ともに追求している様子が伺える。また、新規参入のAndroid(Google)は近未来のOSの覇権をAppleと本気で勝負しているのもあり、手抜かりなく人間が頑張っている。

このように、アプリのローカライズの出来不出来は、メーカーの本気度を測る良い指標だと言える。営利企業であるメーカーに多くは求められない部分もあろうが、もはやインフラ化したようなOSやアプリのローカライズで手抜きをすることは、ユーザー全体の生産性を確実に下げ、長期的には進化の速度を遅めたり、逆噴射させたりする深刻な事態を招きかねないということを、よく考えてもらいたい。

ユーザー側の心得としては、ここはやる気がないね、と感じたとき、笑い事ではなく、それは近い将来日本語サポートが無くなる、アプリの開発そのものが中止になる、といったことを心配すべきだ。そうなる前に代わりのOSやアプリを探しておかないと、それまでやっていたことができなくなることを意味するからだ。

ローカライズは、画面表示を現地語化する他に、各地独自の概念に対応することも含まれる。日本について代表的なのは、縦書きや和暦の元号への対応だ。この年始、Excelが新元号対応準備のアップデートが入り、一部バージョンで起動しなくなる惨事となってしまったが、このような措置をコンスタントにやってくれているかも、製品選択の上で大事にしたいところだ。Apple版の文書作成アプリでは未だに縦書きができない。この点は膨大なビジネスユーザーを抱えたMSに分がある。

僕は特に個人で作っているような小さなアプリの作者には、カタコトの英語でもってローカライズのおかしい場所を指摘したり、対応を要望したりするようにしている。ユーザーが自ら声を上げ、メーカーに対応を迫っていくことも重要なことだ。

2019.02

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「パソコンオタクのなんちゃって哲学」は、とみっぺが2018年より、Webマガジン「月刊CAMNET電子版」に連載している記事です。

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