Webマガジン「月刊CAMNET電子版」
2018年から連載している記事のアーカイブです。

#6

フォントを活用すると、モノづくりのクオリティがぐっと上がると思う

前回は「フォントはすなわち視覚版の声色だと思う」と題して、フォントの存在意義を論じ、その素晴らしさの布教活動をおこなった。だが実際に活用するには、ありかを知る、なければ手に入れる、安価な方法を見出すと言った下準備が必要だ。

フォントを使う場面を考えてみると、チラシや名刺などの印刷物始まり、Webサイト、動画など、たいていなんらかのモノづくりを伴っている。したがって、スマホやタブレットよりも繊細な操作が可能なPC、そして制作物に応じたアプリケーション、そしてフォントが必須になってくる。

PCについて言えば、WindowsとMacを比較したとき、Macのほうがフォントの画面表示技術が優れており、印刷されるイメージをよりそのまま画面で再現できるが、Windowsも画面高解像度化の副産物としてフォントとの親和性が年々向上しているので、特にタッチパネルの端末をお使いの方はWindowsでも問題ないと言ってよい。

アプリケーションは、印刷物であればホームユースでWordやPowerPoint、プロユースではIllustratorが定番だ。動画ではホームユースでPremiere ElementsとかiMovie、プロユースでPremiere Proなどになろう。Webでのフォント活用については後述する。

さて本題のフォントだが、OSに最初から入っているフォント、入っていないフォントがあり、後者を手に入れる方法はいくつかある。

最近はOS側も大手ブランドのフォントを積極的に搭載し、モノづくりのクオリティを底上げしてくれている。Windows10に新しく搭載された「游明朝」をWordのビジネス文書に使うだけで、それまでの「MS明朝」で作った制作物からは見違える出来になる。Macでは「筑紫A丸ゴシック」など、プロデザイナーも垂涎の「使い勝手は最高だが高価なフォント」が搭載されるようになった。まずはお使いの端末内にあるフォントを探索してみたい。

自分で新たに追加するフォントは、有志が作成してネット等で配布されているフリーフォント、販売されている有料フォントに大別される。フリーフォントはどうしてもピンキリ感があるが、中には唯一無二の味を醸し出す名作もある。手書き系の「ふい字」書体には上手すぎず下手すぎない絶妙の質感があり、長らく筆者のメールソフトの表示フォントになっていた。これで人のメールを読むと、それだけで一段優しくなるのだ。ぜひ「フリーフォント」や書体名でネット検索し、お気に入りを掘り出してみてほしい。新作フォントの情報を仕入れて発信する「コリス」などのブログサイトや、フリーフォントを多数まとめて収録した書籍も非常に有用だ。よいフォントが厳選されているので、自分で1から探す手間が省ける。

有料フォントは、それぞれの制作会社や提携している販売サイトから購入する方法がまず思い当たる。最近は単体販売よりも年額契約制が主流になってきている。トップシェアのモリサワ社が展開する「MORISAWA PASSPORT」は、年額約5万円で同社の1000以上のフォントが使い放題というサービスだ。単体だと1つ数万円になるので、これでもずいぶんと敷居が下がった。

とはいえ、なかなか気軽に出せる金額ではないと感じる方も多いだろう。そういう場合、年賀状アプリなどの付属フォントを利用する手もある。付属フォントと言っても基本的に親アプリのみならずOS内のすべてのアプリで使用できる。「筆まめ」には毛筆書体を中心に100以上ついてくるし、Windows用ワープロアプリの「一太郎」には、Macに標準搭載されている「ヒラギノ」書体が付属していて、単体で買うより格安でWindows環境でも利用できることになる。また「Illustrator」を含むAdobe社の年額サービス「Adobe Creative Cloud」にも多数のフォントが使い放題のサービスがついてくる。

ここまで、自分のパソコンでモノづくりをする上でのフォント環境整備についてまとめた。ただしこれがWebサイトの制作においてだけはそのまま適用できない。フォントはそれが入っているパソコンでは表示できるが、入っていないパソコンでは表示できないという基本的な性質が邪魔をするからだ。紙ベースのものであれば印刷してしまえば自在に表現できるが、見る人のパソコン環境で左右されるWebサイトはそうは行かない。ではどうするかと言うと、「Webフォント」というしくみを利用する。生成されたコードをサイトのコードに貼り付ければ、見る人のパソコンに入っていないフォントでも表示できるものだ。フリーフォントではほとんど不可能だが、有料フォントのサービスはその多くがこの機能を付けている。また最近ではサーバーにWebフォントの機能が搭載されているものがある。「さくらのレンタルサーバー」では前述のモリサワ社のフォントなどが追加料金なしで使える。

ぜひあの手この手で面白いフォントをかき集め、場面場面にドンピシャなチョイスを可能にし、周りの人をあっと驚かせる完成度のモノづくりにトライしてみてほしい。そのプロセスが、ひいては文字とは何者かという哲学的思考にもつながって、パソコンやデザインへの理解を深めるきっかけになるはずだ。

2018.04

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「パソコンオタクのなんちゃって哲学」は、とみっぺが2018年より、Webマガジン「月刊CAMNET電子版」に連載している記事です。

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