Webマガジン「月刊CAMNET電子版」
2018年から連載している記事のアーカイブです。

#4

脱フォルダー」の流れは、「なんでも検索時代」突入の兆しだと思う

パソコンは一見複雑にできているが、ソフトウェア的にはフォルダーとファイルでできていると言って差し支えない。大事なフォルダーが削除されればシステムは起動しなくなるし、容量が満杯になることはすなわちファイルが多すぎてディスクを圧迫していることを意味する。

我々が現実世界でモノの整理をするとき、使う場面や関係する人などによって別々の箱に分別し、ときにそれらの位置関係にも配慮して収納する。グルーピングである。パソコンの世界のフォルダーの考え方もグルーピングそのものであり、そういう視点で自然に行き着いたものだろう。

しかし現実世界のグルーピングとパソコンのフォルダーとを比較すると、一方は有形の物体で他方は無形の電子データだということ以外にも異なる特性がある。

第一は、固有の順番の有無だ。現実世界は、XYZの3次元の世界なので、箱をどう並べるかという意味で、固有の順番を持つと言える。それが偶然の場合もあるが、使用頻度などの優先順位を考慮した結果であることのほうが多いだろう。一方パソコンの場合、例えばPCのデスクトップアイコン、スマホのホーム画面のアイコンなど、例外的に並べられるようなしくみもあるが、本質的にはフォルダーやファイルに固有の並び順を定義するような機能はない。

第二は、入れ子構造の無限性だ。現実世界では、人が扱えるモノの大きさには自ずと上限と下限があり、箱の中のクリアファイルの中の封筒の中のカード、という程度は可能だが、概念世界であるパソコンでは、この限界が事実上ない。パソコンメンテナンスという仕事上、普段一般の方が立ち入らないシステムの領域を探っていくことがあるが、そうするととんでもない深度の階層の中にトラブルの原因のファイルがあったりする。

第三は、同一性の決定方法だ。現実世界で「保険関係」という名前の封筒が箱に3つあってもせいぜい不便なだけだ。パソコンでは、同じフォルダーの中に同じ名前のフォルダーやファイルは2つ存在できない。つまり同一性が名前で決まってしまう。

このような特性は、場面によっては人間の直感とのズレを引き起こす。その結果、「脱フォルダー」の方向に進化することがある。

固有の順番を持たない第一の特性は、柔軟性の高い並び替えを促進している面もある。PCでは受信トレイのメールは件名順にも日付順にも、また昇順にも降順にも容易に並べ替えることができる。ところが、元来パソコンに慣れ親しんでいない高齢の方ほど、この柔軟性が理解しきれず、並び替わってしまったメール一覧を前に頭を抱えてしまう事例が多い。スマホのメールアプリではほとんど並び替えの機能が削られ、日付降順のみになっていることは、興味深い進化だ。

また近年多くの人が使うようになったGmailは、メールの整理方法をフォルダからラベルによるものに変革した。ひとつのメールに「見積」「重要」などと次元の違う複数のラベルを付けられる。どこかひとつに属させないといけないフォルダとは似て非なるものだ。またラベルには階層がない。つまりGmailは第二の特性である入れ子構造まで取っ払ってしまった。

また、デジカメやスマホで撮影した写真の整理をエクスプローラなどで手動整理しようとすると、偶然同じファイル名の画像がバッティングしてしまい、第三の特性上ファイル名を変更せざるを得ないことがあるが、人は直感的に写真にいちいち名前なんか付けていないので、作業が一向に捗らない。最近の写真管理アプリでは表面的にフォルダー階層やファイル名を意識しなくて良い作りになっている。皮肉なのは、中途半端に手動整理と専用アプリによる整理が混在し、マイピクチャの中がカオスになってモヤモヤしている方が少なからずおられることだ。

このような「脱フォルダー」の流れだが、フォルダーを使わないということは、すなわち同じ箱にすべてのファイルが入っていることを意味する。フォルダー整理派の方にとっては不快でたまらない状況だろう。しかしここで昔は良かったなどと言わず、ある点に注目したい。この流れが前述のようにGmailから顕著になった理由である。それはつまり、Googleが得意とする検索技術の急速な進化だ。どうせ検索で確実にたどり着けるのなら、そもそも分けておく必要がないのだ。あらかじめガチガチに整理する几帳面さより、上手に検索して見つけ出すスキルが問われる時代になっていくのである。また、検索によってダイレクトに目的物に到達するアプローチは、並び順の重要性をも低下させてしまう。きわめてパソコン特有の進化であり、現実世界のモノの整理とはより違ったものになっていくだろう。

検索の技術そのものは実用に耐えうる一定のレベルに達したと言えるが、写真などの画像に自動で文字情報を付加する認識技術は次の課題になってくる。これが成熟してきたとき、「脱フォルダー」と「なんでも検索時代」への突入は一気に早まるはずだ。

2017.12

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「パソコンオタクのなんちゃって哲学」は、とみっぺが2018年より、Webマガジン「月刊CAMNET電子版」に連載している記事です。

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