Webマガジン「月刊CAMNET電子版」
2018年から連載している記事のアーカイブです。

#2

OSの思想と政治体制は、似ていると思う

パソコンの電源を入れたとき、まず最初にロゴが映し出される。マシンのメーカーの他に、オペレーティングシステム(OS)が何であるかということを主張してくる。ユーザーは「Yahoo!を閲覧する」といった具体的な行動の準備として、まず OSの入場ゲートをくぐらなければならないのだ。

OSの存在はソフトウェア部分の中心であり、あらゆるアプリケーションや周辺機器の動作を統制している。開発者はOSの仕様に合わせてアプリや周辺機器を作らないといけない。法律を作る人(OS)と、そのもとで生活する一般市⺠(開発者)のような関係と言え、政治体制のようにも見えてくる。

PCの世界で現在最も広く使われているのがMicrosoft Windows だ。ビル・ゲイツは、Windowsを普及する戦略として低スペックなパソコンで動作するようにして低価格化を推進した。しかしより重要なのは、アプリを開発するコストを徹底的に下げたことだ。

思い返せば、PCを買ってもらった中学1年当時はネット環境がなく楽しみはもっぱらパソコン雑誌だっだが、その中にはどこの誰が作ったとも知れない数百のアプリがCD-ROMに収録されていた。この⻘天井の拡張性が楽しくて仕方なかった。

このようにしてWindowsは参入する企業や開発者をどんどん増やし「なんでもできる」環境を構築したことで、PCのトップシェアを手にした。このような非常に自由至上主義的な考え方は一般市⺠(開発者)の経済活動を最大限にしたが、その反面で悪意のある開発者の取り締まりが手薄になりウイルスの蔓延を許してしまった。最近でこそ内蔵されるようになったが、感染防止のためには他社製のセキュリティソフトを入れなくては使いものにならなかった。警察機能まで⺠営化するとはなんとも小さな政府的な考え方である。

また、開発者の声を強くしすぎてしまった。昔のアプリを動かすための互換性の維持に体力を奪われ、過去の仕様との決別が遅れる。Windows 10でも様々な部分で新旧が入り混じり、操作性のちぐはぐさが目立つ。そんな「決められない政治」な部分は、日本の自⺠党が行ってきた調整型の意思決定のようだ。

GoogleのAndroidはWindowsの考え方と多分に重なっているから、利点や弊害もよく似ているが、互換性の部分についてはまだ歴史が浅い分どうなるか見えない。

AppleのmacOSは、主にデザイン・出版業界で根強く支持されてきたが、最近はiPhone(iOS)の爆発的な普及により、連携が良いとして連鎖的に利用者を増やしている。スティーブ・ジョブズは、統一感がもたらすユーザーの直感的な操作を最も重んじた。そのあまりAppleは一時期の例外を除いて、MacやiPhoneはマシンの段階から自社生産にこだわっている。

中身のソフトウェアでもその色は濃い。iPhoneのシステムであるiOSでは、Appleが運営するAppStoreに陳列されているアプリ以外は全く動かせない。AppStoreに並べてもらうには厳しい(というか厳しすぎる)審査をパスせねばならず、その細かいルールはAppleによってしょっちゅう変更される。このような方式は PCのmacOSにも輸入され完全に適用されつつある。また、互換性の確保期間も短い。数年前のプリンタが最新の OS の仕様変更で動かなくなったりする。

このようなルールの厳格さは前述のWindowsと正反対で、いわば一党独裁の指導体制だ。市⺠(開発者)の行動は事細かく制限されるが、その最たるメリットは秩序維持だ。事実、iOSではウイルスの騒ぎと言ったものをほとんど聞くことがない。また、過去の遺産にとらわれすぎないため、いちいち建て直す店舗みたいなもので、その時々の統一感を最大限に出すことができる。独裁者が作る街は美しい。macOSを始めとしたApple製品全般に見られる美しさを保つために必要な考えかもしれないが、万人に愛されにくいことも確かである。ひとたび統制に失敗してユーザーの信頼を失ったとき、日々の圧政に不満を持った開発者が雪崩的に離れていく可能性がある。

このようにOSの考え方の違いを強調したが、時代の変化とともに両陣営の考え方が徐々に近づいていることも確かだ。

Windowsは、スマートフォン向けにも手を広げようとしたが、先行するiPhoneやAndroidに全く刃が立たず変革の岐路にある。最大の問題であったセキュリティ面を改善するため、iOSにならって、動くアプリを「Store」経由のみの方式にしようとしている。自由を売りにしてきたWindowsが警察増強に動いたことは、昨今の世界情勢にも通じるところがある。

またmacOSの方は、Windowsで作ったファイルの閲覧や共有の機能を増強したり、Macの端末でWindowsそのものを動かすことができるようにしたりと、独自路線に固執せず相互性を確保しようとしている。弱り気味の現チャンピオンに立ち向かうチャンスとばかりに、清濁併せ呑むと言ったところである。

OSを政治体制になぞらえてどういうメリットがあるのか微妙だが、読者それぞれの好みに合った機種選び、パソコンに対する新たな興味につながればと思う。変に中立ぶる必要もないので書いておくと、現在の僕はこの原稿をMacで書いて iPhoneで読み返すApple党である。

2017.08

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「パソコンオタクのなんちゃって哲学」は、とみっぺが2018年より、Webマガジン「月刊CAMNET電子版」に連載している記事です。

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