Webマガジン「月刊CAMNET電子版」
2018年から連載している記事のアーカイブです。

#1

人間とパソコンの素敵な関係ってのは、あると思う

読者のみなさん、はじめまして。僕は簡単に言えばパソコンオタクだ。それが高じて、パソコン漬けの毎日をどうにか正当化しようと、大学在学中に学業をほっぽらかして事業を始め、今に至る。

将棋の棋士は盤面に大宇宙を感じるそうだが、僕も同様に、パソコンとの生活の中で、時にものごとの原理や機微を妙に発見してしまったりする。しかしそんなことを、概念論よりハンバーグな妻に話しても門前払いだし、実生活で即効性のない長話に付き合ってくれる奇特な友人にもしょっちゅうお願いするわけにはいかない。退屈だから、ここに書き連ねてみようと思う。

ところで、僕は「パソコン」という言葉を「仕方なく」使っている。AppleのiPhone以来、スマートフォンやタブレットといった新しい形の端末が爆発的に広まったが、これらといわゆる従来のパソコンとをうまく総称する言葉が未だに発明されていないのだ。スマホやタブレットを含めない時は「PC」と書くことにする。なんか論文みたいな前置きだな。

さて、先日、友人がFacebookに、「巨人が13連敗する確率ってどんなもんだろう」なんてことを書いてたので、中高で習ったきりホコリをかぶった確率の数式を頭の隅っこから引っ張り出してきて、しばし考えた。ところが、「普通に考えれば1/2の13乗か。でも待てよ、試行回数は143試合と決まっている…」などと考えれば考えるほど深い迷宮にはまり込んで行く。こうなるとどこまでも行ってしまう性分なもんで、開幕13 連敗、2試合目から13連敗…と、考えうるパターンの総検証をおっ始めてしまった。

ただ、ここでなんとなしにExcelの力を借りたことで、ことはころりと好循環に転じた。開幕戦から最終戦までの連敗確率が一覧表になったことで、思考の速度と正確さが目に見えて上がった。計算自体を自分の頭で行う必要がなく、それらを導く規則性の発見に注力できたからだろう。

そしてついに、数学ド素人ゆえに2日かかったものの、「負ける確率がZのとき、X試合の中でY連敗する確率」という汎用的な式を書くことに成功した!このときの爽快感だけで何杯でも白ごはんが行けそうな勢いである。ちなみに、巨人が13連敗したことは、確率0.08%の奇跡的事象であった。

いきなりメタ視点だが、この話、僕はPCを大きく2つの用途で利用し、そしてある用途のためにあえて利用しなかった。

第一に、先に書いたとおり計算で使った。パソコンが最も得意とする技の一つだろう。

第二に、できあがった計算表をGoogle スプレッドシートに変換し、ネットに公開するために使った。(http://bit.ly/2rhB9dq)ここには誰でも入ることができて、XYZの値は自由に設定して遊ぶことができる。大げさに言えば、知の共有である。これはPCなくしてはとてつもない労力がかかる。また、見た人が入力できる双方向性は、かなり新しい体験だろう。

そしてこれがもっとも重要だと思うが、第三に、答えを知ることを目的として、ネット検索やWikipediaなど(ある意味でネットの向こうにいる人間)を使わなかった。腑に落ちるペースで考えてみたかったのだ。あくまでアイデアは自分が出し、PCには計算とビジュアル化を手伝ってもらうだけにした。

これってもしかして、人間とパソコンの理想的な関係かもしれないな、と思ったのだ。

ここ最近、いま人間がしているほとんどの仕事はAIに奪われるだろうという議論が盛んだが、それは合理性のみを前提とした極論だ。だいたい人間は、最短時間で最小限の栄養を摂取するだけの食事なんて好まないじゃないか。仕事だってお給料のためだけにやっているのではもちろんない。人間がどこまでやるかは、その周辺の副次的な幸福感を暗黙のうちに感じ取って人間が決めればよいものだ。それをしないのは、飼い犬に自ら手を差し出して噛ませるも同然だ。よもや資本家が経済合理性のみを追求してなんでもかんでも自動化無人化を推し進めるなら、それは戦争に匹敵する大きな社会問題になるだろう。

僕は大学やシニア向けの教室などで、パソコン講師の仕事もしている。そこでいつも感じるのが、パソコンに苦手意識を持つ人は、「なんだかすごい機械に自分を順応させなければいけない」と思い込んでいることだ。そういう人は決まって僕に「何から始めればよいかわからないので、パソコンの基本を教えてほしい」と言う。これでは、最初からパソコンに飲まれてしまっている。

そこで勧めるのは、まず、日常生活のある面倒な作業をひとつパソコンでやってみよう、という目的を立てたうえで、いきなりそこからやってみるアプローチだ。僕にとってここまではパソコンに頼んだほうが得だ。ここは頼まないほうが気持ちいい。最適な距離感を自ら見つけることの重要さは、人間同士の関係と全く同じことなのである。ちなみに、若い頃を通じてパソコンがなかった高齢者の方々のほうが総じて上手に距離感をはかっていることは、とても興味深いことだ。

万事こんな調子で書いていこうと思っている。どうぞよろしくお願いします。

2017.06

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「パソコンオタクのなんちゃって哲学」は、とみっぺが2018年より、Webマガジン「月刊CAMNET電子版」に連載している記事です。

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